田辺町立小・中学校間ネットワークプロジェクト

株式会社ジェプロ三輪吉和

田辺町教育委員会中島唯介

京都府綴喜郡田辺町は関西学研都市の北の玄関口に位置する。田辺町教育委員会では中学校のコンピュータ教室の整備は終わっていたが、小学校の整備の前に情報教育の充実のためネットワークを利用することを考えた。企画当初はパソコン通信の運営を考えていたが、マルチメディア図書館として企画案を詰めていくうちにインターネット利用に行き着いた。報告書作成時点では３中学校と教育委員会が接続を完了している。すべての学校が接続完了するのは8月中頃の予定である。

情報教育　マルチメディア利用　コミュニケーション能力　インターネット

第１章　田辺町におけるインターネット接続について

取り組みの経過
システム設計で考慮したこと
導入準備作業で考慮したこと

第２章　運営方法習得を考慮した導入作業

パイロットシステムの作成
展開テストの実施
工事状況の把握と設置
結びに代えて

第1章田辺町におけるインターネット接続について

１．取り組みの経過

本町のシステム構築は、平成６年度に文部省が策定した「新教育用コンピュータ整備方針」に対応した位置付けを検討している。取組の経過をかいつまんで紹介する。

○平成２(1990)年

文部省教育用コンピュータ整備方針策定
小・中学校職員室に1台ずつ整備

○平成３(1991)年

田辺中学校コンピュータ教室整備（22台）

○平成４(1992)年

大住中学校コンピュータ教室整備（22台）

○平成５(1993)年

南八幡高校EWSシステム（S4/IX）を導入し、UUCPにてインターネット接続
培良中学校コンピュータ教室整備（22台）

○平成６(1994)年

文部省が「新教育用コンピュータ整備方針」を策定
4月担当者着任
「中学校コンピュータの管理・運営」「小学校コンピュータ設置立案」が目的
6月担当者が「パソコン通信による学校間ネットワーク」を構想。共同遠隔学習プロジェクト「酸性雨班」「食物と栄養班」に参加
12月「文部省平成7・8年度情報ネットワーク活用推進地域指定事業」応募にあたって南八幡高校に相談。
第2回JAINコンソーシアムシンポジウムが開催されることを南八幡高校管理責任者に紹介され、担当者がシンポジウムに参加

○平成７(1995)年

2月 3中学校と教育委員会にISDN回線設置
6月「小・中学校間ネットワーク」補正予算化
9月京都府中学校技術科研究大会を田辺中学校で開催。田辺町はパソコン通信利用研究を発表
10月町立小中学校間ネットワークシステム提案要望書配布
11月提案書提出・実機デモ
12月納入システム決定

○平成８(1996)年

2月納入機器による展開テスト開始
国際理解教育研究授業でWWWブラウザを利用
3月各学校への設置（ネットワーク工事含む）
4月専用線設置
5月 3中学校と教育委員会をルータで接続
ホームページ公開
8月 9小学校も接続（予定）

２．システム設計で考慮したこと

１）各学校にはサーバを設置しない

ネットワーク(LAN)の経験が全くない利用者（教職員や生徒）相手に、同じく経験のない管理者が、現在の仕事の軽減もなくサーバの維持管理を勉強しながら行うことは、不可能であろうと判断した。そこで核となる施設（以後「推進室」と呼ぶ）を設置し、そこにサーバを集中配備することとした。

各学校の構成図1

２）ダイアルアップで接続

将来、各学校にパソコンが整備されることを前提にしているので、「推進室」と各学校内LANをダイアルアップルータ（専用線対応可能）で接続する設計にした。ちなみに、学校毎にクラスＣのプライベートアドレスを１つずつ割り当てている。

推進室の構成図2

３）AT互換機を利用する

将来、各学校にサーバを設置しなければならない事態に備えて各学校に配備するパソコンはAT互換機としたPC-UNIXを導入すればよい）。

ただし、ネットワークはどのようなマシンでも接続できる。推進室にはDTP用としてMacintoshを導入している。

４）各学校ではピァトゥピァLANを利用する

プリンタやCD-ROMを共有するため、学校内のLANを構築する。当面はパソコン台数が少ないため、 Windows95標準のピァトゥピァLAN機能で十分と判断した。ただし電話料金を節約するため、ピァトウピァの通信は学校内に限定するように設定した。

５）推進室は研修設備を持つ

各学校にサーバを配置しないため、サーバを集中配置／管理する場所が必要である。この場所は研修設備を兼ねる必要がある。

６）公衆電話回線経由の端末型ダイアルアップPPP接続設備を持つ

電話回線があるところへの出張講習やリモートメンテナンス、また町外の学校との交流に利用する。

すでに田辺町に隣接した井出町にある府立城陽養護学校は本システムにダイアルアップPPPで接続しにきており、電子メールを利用した生徒間交流を行っている。

７）ISDN回線について

推進室と各学校とはISDN64で接続する。推進室のISDN64回線を13回線としたのは、将来トラフィックが増加した場合に128Kbpsを利用できるようにするためである。

ISDN1500を利用しなかったのは

学校と同じ機器を利用しておれば、万が一の場合の機器の流用ができる
同じ装置を利用することで、機器の利用方法の学習負担を減少させる
トラフィックの多い接続先の専用線への移行を可能にする

という点を考慮した結果である。

８）ノート型パソコンと高輝度プロジェクタ、ネットワークケーブル工具

小・中学校の体育館などでの講演会などさまざまな場面での活用ができる。

実際、後述する展開テストでは工事が遅れたため、この工具で自作したケーブルが活躍した。

３．導入準備作業で考慮したこと

１）ドメイン名の申請

インターネットに接続するためには、ドメイン名とIPアドレスの取得が必要である。IPアドレスは接続先のプロバイダから割り当てを受けることにした。

本システム構築当時は、田辺町としてインターネット接続の予定はなかった。しかし、情報化基本計画は存在しており、将来は町としてインターネット接続する可能性があるというのが関係者の共通した認識であった。そのため、IPアドレス取得の基本データとなる「今後のホスト数の増加傾向」が全く予測できなかったため、内部はすべてクラスＣのプライベートアドレスを利用することにした。

また、ドメイン名は教育委員会として申請することにした。田辺町は1997年4月に市政移行することに決定していたが、申請当時新しい名称が決定していなかったため「田辺町」を前面に押し出さないように配慮した（導入作業中に「京田辺市」に決定した）。以上の経緯から、以下のドメイン名を申請した。

TANABE-BE.TANABE.KYOTO.JP

（BEは教育委員会の英訳であるBoard of Educationの略）

２）ホスト名の命名規則

インターネット接続にあたって各パソコンのホスト名は機械的なものであってもよい。しかし、ピァトゥピァ接続するときに見えるコンピュータ名と一致させておくと便利であろう。パソコンは教職員ばかりでなく小・中学生も利用するので、できるだけ親しみやすい名称がよい。そこで動物の名前と教育委員会内部で利用している学校番号の組み合わせとした。学校番号はIPアドレスのネットワーク部に対応させ、動物の名前はホスト部に対応させた。

たとえば田辺小学校（学校番号１）のパソコンは

zou1 192.168.1.2
saru1 192.168.1.3
tora1 192.168.1.4
となっている。このホスト名を記入したシールをディスプレイに貼ってある。故障などのトラブルが発生した場合、シールに記入された名前を連絡してもらうだけで学校とマシンが特定できる。

ちなみにサーバは「動物をまとめて面倒を見る」という意味でzooと命名した。

３）利用者名の命名規則

ユーザIDの規約は、利用者クラスを示す１文字の英字、施設（学校）番号、利用者登録年度、通番を意味する7桁の数字を組み合わせとした。

たとえば、教育長はa1396001（筆頭管理職(a)、教育委員会(13)、96年度役職(96)、通番(001)）となる。

４）機器設置場所の選定

せっかくの機器が利用されなくては意味がない。

しかし、現実にコンピュータ教室の利用となると有効に活用できる場面は案外すくない。このプロジェクトではコンピュータを「マルチメディア百科事典」と位置づけた。こうすることによって、コンピュータを図書室のように児童、生徒が自由に操作できる場所に設置されるように誘導した。

すべてを公開端末にしたのでは、教員の研修に利用しにくい。そこで、以下のような配置になった。

職員室図書室等ｺﾝﾋﾟｭｰﾀ教室等

小学校 1台 2台－

中学校 2台－ 1台

小学校図書室図3

第2章運営方法習得を考慮した導入作業

今回のシステムではできるだけ実績のあるものを選択した。しかし、Windows95自体の動作実績がほとんどなく、TCP/IPとIPX、ピァトウピァなどのネットワークシステム間の関係など不明なところが多くあったため、4ステップに分けて導入した。

１．パイロットシステムの作成

サーバ機(2台)、パソコン(3台)、ダイアルアップルータ(2台)、ハブ(2台)の構成でWindows95の基本的なインストール方法やサーバとの接続を確認した。このときドライバソフトの相性や、各種ボードのPnP（プラグアンドプレイ）の動作などを確認した。

２．展開テストの実施

今回導入予定の機器をすべて中央図書館の一室に集めて動作テストを行った。ちょうどInteropのホットステージと同じ考え方である。通常は保守担当会社のCEが設置（開梱やカードの差込など）を行うが、関係者だけで機器の設置をおこなった。

ここで、

Windows95のPnPの不安定さ
ピァトウピァLAN利用での注意すべきところ
ソフトのインストール方法（設定項目のチェック方法など）
ハードウェアの動作チェック方法

を身につけることができ、初期トラブルは利用者側で解決できるようにする訓練になった。

３．工事状況の把握と設置

展開テストと平行して、各学校の設置準備を行った。具体的には

設置場所の打ち合わせ
ネットワークケーブルの配線ルートの確認
電源容量・コンセントの確認
電話線の入線ルートの確認

である。

このチェックは、各学校の責任者と工事業者だけに任せるのではなく、教育委員会の担当者、ＳＥ、営業担当者も現地を確認した。このため、距離感、設置工事作業量などの共通認識ができ、工事日程のすりあわせにずいぶん役立った。

さらに重要なことは、各業者間の調整をＳＥと営業で綿密に行ったことである。年度末は、納入物品が予定どおり届くことはまずない。また、工事は必ず遅れるものである。この遅れを常に把握して調整しないと作業の遅れはどんどん酷くなる。

この悪条件を少しでも緩和するには、連絡が集中するような仕組みが必要であった。

４．結びに代えて

現在，推進室と３中学校、教育委員会がインターネットに接続されているのみであるが、8月中旬にはすべての接続が完了する。今は教員、教育委員会職員の自己研修やクラブ活動で利用している。

今後さらに、合計１４個所のサポートを行うことになる。そのため、情報教育担当者の組織を設立したが、実際活動できる状況にあるのは一人の担当責任者だけである。

そのため、ユーザ教育、利用方法告知などエンドユーザ向けの仕事を教育委員会の担当責任者が、サーバの管理、接続トラブルの調査など技術面のサポートをＳＥ会社が行っている。こうすることによって、教育現場の実状に即した利用者教育、およびそれにあわせたコンテンツ作成に少しでも寄与できると判断している。実際、教育委員会のホームページは教育委員会の担当責任者一人が1週間程度でほとんど作成し、現在もメンテナンスしている。(http://www.tanabe-be.tanabe.kyoto.jp)

今後は上述の運営組織を通じて、モラルを重視した管理者教育、および安定した運用ノウハウの蓄積を目指した教員・職員の研修を充実していく予定である。

1996年7月3日

三輪吉和(ymiwa@kyoto.jepro.co.jp)

中島唯介(nakajima@tanabe-be.tanabe.kyoto.jp)

参考引用文献

上原博一／松本一治／三輪吉和
（京都府立南八幡高等学校、株式会社ジェプロ）
「高等学校における情報発信授業の試み」
JAINコンソーシアム1994年6月合宿資料
斎藤武夫（東北大学大学院情報科学研究科、
東北インターネット協議会）
「初等中等現場へのインターネット接続における諸問題とその対応」
情報処理学会／分散システム運用技術研究グループ資料（資料番号DSM-951154）1995年11月

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